暮れも押し迫る中、忘れられない光景がある。
平成元年 12月29日 (25歳)
その年は、あまりにも多忙なため、暮れも正月も返上で仕事に明け暮れて、東京から新潟へ帰省する選択肢はなかった。
そんな、夕方のJR山手線での移動時間だけが、一息つける場所でありながら、目の前の長椅子に腰を掛けた乗客の足もとには、一様に大きなボストンバッグが並んで置かれていた。
西日のさしこむ車内で、人には故郷があることを知らされ 「東京に独り残された寂寥感」 に包まれた。
故郷のある人なら、一年の心地よい疲れと手土産をもって、待つ人のいる家庭へ帰る。
その先には、疲れを癒すもの、楽しいこと、友人との再会など、遠景に想いを馳せるもの。
駅のホームまで見送ったり、バス停まで付き添ったり、ありきたりな親子の風景も懐かしい。
現在、新型コロナウイルスの影響で、それまではあたりまえに 「ただいま」 「おかえり」 を交わせる、家庭という最小限の安らぎの場、甘えが許される場だったことを、多くの人は気づかされると思う。
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