2020年08月26日

心憎い客

日本語の難しさと言うか、機微なる語彙と言おうか、同時に二つの意味を持つ言葉がある。

そのひとつ 「憎い」 は、仕打ちを加えたいほど、嫌いな相手と受け取れる。
一方 「憎いね」 だと、感心や評価、認めた相手、嫉妬のニュアンスも含まれる。

「心憎い」 演出で、お店を応援してくれるお客さんもいる。
経験上、初対面でベタ褒めされたり、調子のいいことを並べ立てる客ほど、消え去るのは早い。
「今度、行きます」 「また、来ます」 は、出たためしのない 「おばけ」 と同様に、ありがた迷惑。

長年、お店に身を置く常連客ほど、悪口にユーモアや心がこもっており、細く長いシンプルな関係ほど、気楽に心から楽しめるようになる。
「マスターでなく、ママに会いに来たのに」 とか 「怪しい店だけど、勝手に足が向くから困る」 などと、遠回しにけなされるような 「憎まれ口」 を叩くが、はにかんだ愛情を感じる (笑)

前ほど、会社ぐるみで店を贔屓にする風潮は薄れたが、転勤するまでいろんな方々を紹介してくれた、お客さんも多く存在していた。
新任や部下を顔つなぎに連れてきては、転勤最後の言葉 「これからも、この店で仲良くやってよ」 と、仕事の引継ぎをするかのように、人間関係を保持できる場所を残して、新潟を去った人もいた。

今はそんな粋な人は少ないが、人情気質のある人は、損得勘定に支配されない。
だれもがコミュニケーションできる、砂場の役割を残せる、しゃれた男気を置き土産にした。
僕はカウンターの内側で、思わず 「憎いなあ」 鯔背 (いなせ) だな、と独り言。

コロナ禍だからこそ、今や遠方の 「心憎い客」 の、あの顔、この顔、そして、あのひと。
posted by GIG at 00:00| Comment(0) | Bar & Human | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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