2016年11月24日

上司の死去

85年に入社した会社の上司は、慶應義塾大学出身、空手を特技として、いかつい顔してピアノも弾く、文武両道タイプだった。

20歳のとき、現在のさいたま市大宮区でお世話になった上司 (支店長) が、今年2月に享年76歳でお亡くなりになったことを、奥さまの直筆 (喪中ハガキ) で知った。

今年の正月2日、藤沢市にお住いの元上司 (以下、Aさん) に、新年のご挨拶も兼ねて、電話で話をしたのが、最後の肉声になっていた。
それを知らずにいたら、また来年の正月も電話で、ご挨拶をするつもりだった。

あのとき、奥さまが引き継いだ電話の子機は、枕元に移動したらしく、少し声がかすれて、やや体調が辛そうだったが、気丈に対応された気がする。
いつも 「おまえは義理堅いな」 と言われたが、あの当時は忘れようにも忘れられない出来事も多く、本当の意味で、社会勉強をさせてもらったから、節目でご挨拶するのはあたりまえの礼儀なんだ。
一年前、肩で風を切って、古町を歩いていた姿とは別人で、スーツを着るようになったんだからね。

あの当時、ボクは良くも悪くも 「一本気なタイプ」 で、人を疑う気持ちはなかった。
Aさんは、そんな不器用な性格を見抜いて、公私に面倒を見てくれるようになった。
仕事は 「ピアノのセールスコンサルタント」 だから、専門的に覚えることも多く、それはきつかったけどそのぶん結果も出せたし、何よりも仕事を好きになれたことが大きい。
手抜きをしたときは、愛情をもって本気で叱られたし、支店の成績が落ち込んで暗くなっているときでも率先して明るく振る舞う姿に 「俺らに合わせてくれてるんだなあ」 と気づかされた。

会社は全国に拠点を持っていたから、東京会議ではさまざまなタイプの支店長が一堂に会した。
へらへらと変にものわかりのいい店長、コトの本質をすりかえてむちゃくちゃを言い出す店長。
40歳も過ぎて好き嫌いでしか仕事をできない店長、他人の権威を盾に道徳的な説教の好きな店長。
しかし、当時44歳のAさんは  「上に媚びず」  「中と群れず」  「下に威張らない」 三拍子揃った、孤高な店長で、その奥にある人間的な魅力にも憧れた。

それを裏づけるのが、社長の面談で 「Aちゃんは天才肌だから、ついていくのも大変だろう」 と言うがAさんはうぬぼれた素振りを見せたことはなかった。
社長が 「Aちゃん」 というぐらいだから、昔からの人間関係で、大手企業から引き抜かれてきたので、新旧の人たちの嫉妬や反感は、予想以上に厳しいものがあった。
ボクはつぶさで、そういう姿を見ていたし、Aさんの直属の部下というだけで、冷たい態度をとられた。
だから、どこかでボクを守ってくれて、当時の男気に背を向けられないのが、Aさんとの関係性なんだ。

85年暮れ、ボクは会社の派閥の思惑で、赴任先の辞令を仕事納めの日に撤回され、大宮の住まいを失うはめとなりながら 「何とかなります」 と意地を張り、池袋の西口公園で年を越す覚悟をした。
今でいう、ブラック企業とは違い、一部のブラック幹部らが、社長の目を盗んで、ひとりの部下となった、ボクをやめさせるように仕向けて、コトのてんまつは、明らかに 「Aさん潰し」 だった。
つまり、それだけ、能力的にも、人間的にも、嫉妬される上司だったんだ。

このまま、新潟に帰るのは気恥ずかしいし、もう住居がないんだから、やめざるを得ないことをAさんに伝えると正月に自宅へ招かれ、奥さまと三人ですき焼きを囲んだ日は 「一宿一飯の恩義」 がある。
年始、渦中の会社に出勤すると、そのことで会社と掛け合ってくれて、社長がボクに謝りに来たときは、悔しさや情けなさより、狡猾な世界を目の当たりにしたから、それからはあまりおどろかなくなったね。

Aさんの部下として、働ける環境を誇りに思うも、サラリーマンはどこかで道はふたてに分かれるもので会社というのは、生きものである。
今振り返れば、Aさんは自分の若かりし姿を、ボクに投影してた節もあり、今なら問題になるような言葉 「がんばれ」 とシンプルなエールに感情をゆり動かされ、見えないところで、一筋の涙を引いたものだ。

あれから、30年間のつながりはあったものの、時のすれ違いは儚く、最期まで会えずじまいだった。
一度だけ、お住いの近くを立ち寄ったので、急遽訪ねたのだが、タイミングが悪く不在で、実のお母様に手土産を渡して戻ったところ 「何で待たせておかないんだ」 と、もめたことを電話で聞かされた (笑)

死去した一ヶ月半前の正月、条件反射的に背筋がピーンと伸びて 「お体をお大事にしてください」 と電話をおいたが、あのときにはもう、余命を悟っていたのだろう。
そんな今、奥さまに追悼の意を託したく、つたない文章で思い出を静かに執筆中である。

「おやじ」 と呼びたくなる、男の美学をもった、一匹狼のボスだった‥  享年76歳 合掌。

(2011年 11月14日 ブログ記事参照)
http://jazzbar-gig.seesaa.net/article/235160501.html

( そうそう‥  タバコと酒  ウェス・モンゴメリー が好きな人でね )
posted by GIG at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | Bar & Human | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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