「子どものころ、寿司職人になりたいと思っていたんだよな…」
妻は大笑いした。
僕が白衣を着て角刈りで、「へい、らっしゃい」と寿司を握る姿でも、想像したのだろうか。
目も笑っていたので、本当に可笑しかったのだろう。
でも、冗談ではなかったんだ。
中学3年、春の進路相談のとき。
担任に寿司職人になりたいので、高校受験には興味がないことを伝えた。
親は同意したわけではないが、揺れている年頃に言葉は慎重だった気がする。
結果で高校進学を決めたのは、まだ柔道を続けたかっただけに過ぎなかった。
中学を卒業したら、グレそうな予備軍として心配されていたが、そんなことは何一つ考えてなかった。
進学の後押しもあり、将来は警察官になるつもりでいたが、結果は三年後の採用試験には落ちた。
今思えば再チャレンジしなかった時点で、あまり情熱はなかったのであろう。
それよりも興味があっちこっちに飛んで、考えに収拾がつかない状態になっていたと思う。
一連の流れを話すと、妻は意外な推測をした。
僕が警察官を目標にしたら、高校の三年間は文武両道で真面目に励むしかない。
つまり、横道に反れないように、中学担任がそのレールを敷いたのだという。
ツッパリブーム全盛、周囲からうかつに手を出すなと警戒されていたらしい。
高校生活は振りかかる火の粉は払えたし、人から後ろ指をさされる真似もしたつもりもない。
一時、目標を見失い荒れたことは認めるが、友人の素行が良かったのでいい思い出である。
推測通りに担任が伏線を敷いたのであれば、今まで気づかなかった僕は何という鈍感さであろうか。
妻と飲みながら、ノスタルジーな会話にはならない。
寿司職人になりたかったけど、警察官に進路変更した具体的な話も初めてしたぐらいだ。
最初の夢が真っ直ぐ叶ったとしても、青魚が苦手な寿司職人なんていないよね。
でもね、男は誰しも寿司職人なんだよ。
赤身のにぎり一貫、いなり寿司が二つ、生まれながらついてるけど問題は鮮度でしょ?
最初は笑われ、途中で推測され、最後は呆れられた… かんぴょう巻が好きだ!
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