上司から飲みに誘われたとき、断りたい部下の心中は何となくわかる。
断りたい理由には、酔った勢いで日頃の仕事ぶりを指摘されたり、批判されたくないと思うのだろう。
27歳だった頃、こんな週末の夜があった。
43歳の管理職に誘われて、二人でゆっくりと原宿のバーで飲むはずだった。
それまで、あまりコミュニケーションが取れていなかった上司だっただけに、その誘いは部下として 快く感じ、僕の中では早くも雪解けムードになっていた。
だが、上司が意図していたことは、やり方という部分では正反対であった。
あの頃は、仕事の苛立ち紛れに人を寄せ付けない、尖った部分があったことは否めない。
どうやら上司は、会議で遠慮会釈ない、僕の発言を苦々しく思っていたようだ。
最初こそ、仕事とは関係のない世間話で和んでいたが、それも束の間で本題を切り出してきた。
「こういうことだったのか…」(説教)と思いながらも、上司に指摘されたことはしっかり承服した。
だけど後味の悪さが残ったのは、必要なことほど会社で言ってほしかったこと。
何もわざわざ部下を誘い出して、飲んだ席で懐刀を出すこともなかろうに。
僕はそういう点で言えば、かけひきができない、鈍感な性格なんだと思う。
じゃあそれで、後程の関係が良くなったかと言えば、そうはならなかった。
後日、上司は僕を説教したと周囲に吹聴して威厳を保っていたらしいが、「酒の力を借りなければ、 言えなかったのかな」と思うと、とても残念な気持になった。
言うべきところは、会社で対面で言ってくれたほうが、よっぽど関係は修復できるもの。
その上で、「さっきは言いすぎた… 今晩は俺の行きつけの店につき合えよ」なんて言うぐらいの器が あれば、部下は「この人のためなら…」と情感にかられるものだ。
それにボタンを掛け違えた関係が続いていくのも、いつまでも気持が悪いだけだしね。
縦社会で生きる男の性ではあるが、思いの外に酒の力を借りた説教は効果がないと思う。
だからと言って、上司の誘いを断って、同世代としか飲めない部下では、その先は高が知れている。
気まずくなった雰囲気、上司は領収証で精算し、僕はもう少し飲んでいたいことを告げて店内で別れた。
そのとき、一緒に飲んでいたキープボトルが「山崎12年」で、それまではまろやかだった味と香りが、 心なしか角ばってきたことを舌が記憶している。
その様子を聞かないフリで見守っていてくれた、原宿のマスターとは今でも25年の交流があるんだ。
僕は仕事の話は大いにしても、酒場の席で部下を説教したことは一度足りともないはずだ。
2012年10月18日
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