店へ向かう途中、東の雲の切れ間に見えたのは、湿った光を放つ、魅力的な満月だった。
月の魅力は、変わらないこと。
空あってのことだが、見渡せば無機質な建造物に囲まれ、コンクリートの壁に目が慣れてしまった。
だから、月や星、雲の流れを見ると、生まれたときから変わらない、なつかしさを見た気分になる。
クルマで海岸線を走っているとき、潮の香りを嗅ぎたくなり、窓を開けた経験はないだろうか。
自然を前に、深呼吸をしたくなる、あの心境である。
花火やプロジェクションマッピングなどの芸術もいいが、作られた感覚に慣れてしまうと 「月の原画」 を見失いそうだ。
原画を知ると知らぬでは、その感じ方も異なる。
真夜中の帰路、空を移動した満月は、南の雲にまとわりつかれていた。