台風一過の秋晴れ。
空を見上げたら、雲ひとつない薄い青空が広がっており、昼下りは暑いぐらいだった。
夕方になると、冷え込んできたようで、今度は上着をはおらないと少し肌寒かった。
店へ向う途中、東の夜空に浮かんでた月灯りが、夜道をほどよく照らしてくれた。
電柱の下では、餌付けされたと思われるネコが、だれかを待つかのように座っていた。
ネコもキッチンの窓越しから、ただよう匂いに嗅覚が反応するのかな。
同じ道でも明るい時間に歩く街並みと、暗い時間に歩く街並みとでは、その光景たるものも違う。
「ツンデレ」 って、流行語があったかと思う。
普段は 「ツン」 とすましているのに、対外的なところでは、「デレ」 っと、親しくふるまう二重構造。
わかりやすく言えば、女性の素顔と化粧をしたときの顔の違い。
男の世界でも、権力の行方に敏感な社内政治家タイプほど、こういう態度を平気でとるよね。
日中の飲食店は、光線の加減で店構えがすすけて見えるけど、夜になると見映えの悪いところが 暗がりにおおわれ、ネオンが良いところに灯るので、同じ店でも見え方が違うものだ。
それこそ、同じ街でも昼と夜とでは 「ツンデレ」 となる。
「ツンデレ」 な態度は、そこで暮らす人々の防衛本能だから、一概には空々しいとは否定できない。
しかし、それがあまりにも露骨だと、人から在らぬ誤解をされても、それは仕方のないことであろう。
会社の集合写真でも、普段おとなしい人ほど、場所取りになると真ん中に出るような自意識に似ている。
人は夜の暗さに、孤独を感じて生きるものだと思う。
だから、夜は身の回りの条件さえ整えば、デレッとした不思議な連帯感が生まれるときがある。
恋愛も昼はそれまでの序章であり、成熟するのは夜の出来事が決定的だったりするでしょ。
僕自身、昼顔も夜顔もなく、そう性格は変わらないから、言動は一致しているほうだと思っている。
ただ、気分は内面が作り出すから意識はするけど、根が楽天的なので、「ツンデレ」 なんて言葉には、執着心の欠片もないのかもね。
まあ、ポジティブシンキングなんていうほどの、カッコイイもんじゃないけどさ。
帰宅途中、今度は西の夜空に浮かんでいた月は、14階建てのマンションにその月灯りをさえぎられ、 行きの 「デレ」とは一変して、帰りの夜道では 「ツン」とされた。