2014年03月10日

駄菓子屋のおばさん

昔から、男には「七人の敵」がいるといわれる。

小学生のころを思い返せば、すでに敵は現れていた。
下町(しもまち)の悪ガキを筆頭に、素行不良の上級生軍団。
すぐに先生や親に告げ口をする、ゴムヒモ遊びばっかりしている女軍団。
どこの小学校かもわからない、近所では見慣れない縄張り荒らしの面々。
真っ昼間から、ワンカップ大関を片手に近づいてくる、酒臭いおっさん。
家にまで怒鳴り込んでくる、だれだれくんのおっかさん。
屈強で無口、やたら眼光だけが鋭い職人気質のおじさん。
そして7人目の敵こそ、近所の「駄菓子屋のばばあ」だ。

7人の敵とは、仲違いしているようだけど、どこかで妥協点も心得ているもの。
特に駄菓子屋のばばあとは、世代を越えた戦であった。
小学生なりに客なんだけど、ほとんど客扱いされたことない。
金を払って言われることは「勉強しろ」とか、クジでハズレを引くと鼻で笑う。
僕は知っていた…  大玉スーパーボールの当たりクジ3枚だけを、抽選箱から抜いていたことを。

たまに愛想がいいときは、決まって母親と一緒に行くときだ。
普段の態度とは一変して、「優しいおばさん」を演じるあのズルさ。
「なんて、ばばあだ」と思いながら、大人の調整的な会話に小耳を傾けていた。
ばばあという生きものは、プロレスが大好きである。
「コレ、下さい」と言っても、ジャイアント馬場の16文キックに夢中なんだからね。
「そこにおいておけ」と言われ、すりきれた畳の上に何度も小銭を置いて店を後にした。

またある日…  店先に十円玉を入れて遊ぶ「新幹線ゲーム」という、画期的な機械が入った。
「オッシャー」と叫びながら、ゲーム本体を左右に揺らす裏技を使うと「コラッー」とほうきで散らされたがそういうときのばばあは、怖ろしいほど俊敏な動きで襲いかかってくる。
しまいには「またいたか」と、ほうきで「シッシ…」とあしらわれたので、頭にきて店の扉を外して逃げた。
またある時、いきなり算数の問題を出され「不正解」だったことを高笑いされたので、入口の扉に貼ってあった山口百恵のポスターに鼻毛を2本書いてやった。

不注意で蹴った石ころが、店の庭先に置いてあった、梅干を漬けたガラス容器に当たり壊してしまった。
ひとりで謝りに行ったら、怒られるどころか素直に謝ったことをほめられておとがめなかった。
機嫌のいいときは、たまに座敷に上げてくれて、焼いた餅を食わせてくれた。
そういうときだけは、「駄菓子屋のばばあ」から、「駄菓子屋のおばさん」へ呼び名を変更する。

近所の信頼関係とでもいうのかな…
僕は、万引きやカツアゲをしたことはない。
そんなことをしようもんなら、親父に張り倒されることはわかっていたからね。
ばばあに憎まれ口はたたいたが、そういうことをする子じゃないと安心されてたようだ。
その店は跡形もないけど、場所は山田町のバス通り角にあった小さな駄菓子屋だった。

男には「七人の敵」がいるといわれるが、自分の心が勝手に作り上げる架空の敵も多いのかも。
posted by GIG at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | Bar & Human | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする