素性は明かせないが、ひょんなことに某店主に相談ごとをされた。
僕は人から相談されにくい雰囲気があると思っているし、気の利いたことひとつもいえる術もない。
「珍しい夜もあるな…」と思いながら、余計な口をはさまずに最後まで聞いたつもりだ。
時季や地域など特定されそうな事柄は外して、最低限の分量「女性店主」だけで書き進めていく。
招かざる客に、困っているという。
最初は「よく来てくれていいじゃない」と思ったが、そんな単純に済むような話ではなかった。
女性店主にありがちなことだが、お客さんがいろいろアドバイスしてくれるのはありがたいだろう。
しかし「店のためを思って…」と前置きされては、あれこれと意見するようになるお客さんもいる。
寛大な態度にも思えるが、自己顕示欲の強い客のようで、そのとおりにしないと不機嫌になるらしい。
小さい店は気を利かせ合いながら、自然な会話を愉しむところなんだけど…
最初は一定の距離を保ちながら、当たり障りのない話題で会話を探り合うのが一般的なはず。
だが、次第にご法度とされる政治や宗教、悪いことには他の客の悪口まで言うようになってきた。
冗談レベルではなくなってくると、今度は他のお客さんからも煙たがられてしまう。
これでは「商売が初めて」という、免疫力の弱い女性ではストレスを真に受ける。
僕のように「勝手に言わせておけ」ぐらいの性格ならいいが、純粋だからこそ傷つきやすい。
女性の接客は和ませてくれるもの。
それに事欠きわがまま三昧では、女性店主もたまったもんじゃないだろう。
お金を遣ってくれるのは純粋にありがたいが、精神的なストレスも次第に大きくなる。
つまり、お客さんが生身であれば、女性店主も生身ということ。
その後、男性客は来店回数が減り、今は違う店で飽きもせずにホラを吹きまくっているとか…
結果として、よくあるパターンだ。
店のためを思ってとは言うが、実は自分の居心地だったりしている。
本当に店のためと思うのであれば、店のためになることをするだろう。
他のお客さんからも好かれているし、通い続けていれば自然と清さと粋を身につけているものだ。
女性店主は、答を求めて打ち明けたのではない。
誰でもいいから悩みを打ち明けて、聞いて欲しかっただけだと思う。
共感に勝る媚薬はないと思えるし、時に傾聴は人を助けるともいう。
考えすぎるなと言っても、女性の場合はきっと不安なんだろうね。
それに相談されて、勘違いする年齢でもないしね。
僕自身、人に相談することは大概にしている。
だけど沈んだ気持ちが少し晴れるのであれば、きっと傾聴してくれる人の元へ行くだろうな…