深夜1時を回った頃、Mさんがゆっくりと扉を開けた。
愛飲酒“カリラ”ダブルロックを黙って注いでいると、糸を引くように、静かに涙を流していた。
昔の仲間が自殺したらしく、それも私と同じ45歳の男だという。
私が初めて、仲間の死に直面したのが、高校2年生の春。
それまでの9年間、同じ道場と学校で、柔道のライバル関係として競い合った奴は、私との決着もつけずに、16歳の若さで病のため逝ってしまった。
その葬儀で見たのは、泣き崩れる母親を、涙でむせながら懸命にささえていた、父親の姿だった。
今思えば、大人という人生を経験できずに逝ってしまった、奴の無念さが刻まれた気がした。
残された家族に、どれほど大きな悲しみを与えるかわかるだろう。
死んだ時、泣いてくれる人間は必ずいるんだよ。
自殺で逝った仲間は、深夜のバ−で、“自分のために泣いてくれた” Mさんの涙を知らない。